デス・オーバチュア
第26話「集結! ファントム十大天使」




「大人しく殺されてくださいとは言いません。好きなだけ抵抗してください」
天から舞い降りた銀色の片翼の天使はそう告げると、殺戮を開始した。
手にした極東刀一本で、一人一人人間を斬り殺していく。
老若男女、抵抗する者、逃げる者、一切の区別なく、殺戮を楽しむわけでもなく、ただ無感情に義務的に殺し続けていった。
チィンと刀が鞘に収められる音が響く。
一つの街から全ての音が、命が消え去っていた。
「相変わらず、回りくどい殺し方をするな、マルクト」
銀の髪と瞳の天使マルクト・サンダルフォンは声のした方に視線を向ける。
「兄さん……」
金色の髪と瞳をした黒衣の男が立っていた。
右肩だけに生えている金色に輝く天使の翼が最大の特徴である。
「招集がかかった。戻るぞ、マルクト」
「はい、ケテル兄さん」
マルクトはケテルの差し出した左手を右手で繋ぐと、共に宙に浮かび上がった。
金と銀の翼がはばたく、二人で一人の天使、一羽の鳥のように二人は飛翔していく。
「失せろ、塵が」
ケテルが地上に向かって軽く右手を振った瞬間、白く輝く炎が天からマルクトが殺戮が行った街へ降り立った。
白炎は、建物もマルクトの作った死体の山も、全てを一瞬で呑み尽くし、そこに街が存在していた痕跡は何一つ残さない。
「最初からこうすればいいものを、なぜお前は自らの手を汚す?」
「確かに、兄さんのやり方の方が優しいのかもしれません。何の恐怖も、自らが殺されたことにも気づかせずに逝かせてあげるのですから……」
「別に塵共のことなど知ったことか、この方が楽だから、ただそれだけだ。塵共の返り血など間違っても浴びたくもないしな」
「私は……命を奪う相手一人一人に、これから殺されるという自覚と、それに逆らう機会を与えたいだけ……殺人とは、殺しとは、本来そうあるべきだと思います。例え、互いの間にどれだけの実力の差があろうと……」
「ふん、逆らう機会? つまり、お前は自分の方が逆に殺されるかもしれない、傷つけられるかもしれない可能性を作りたいわけか?」
「はい、殺しの、戦いのリスクとは、自分の方が殺されるかもしれないということに他ならないと私は思います。そうでなければ、命を奪うことの罪の重ささえ実感できなくなるかもしれません」
「塵共の命に重さなどないさ。奴らの命の価値など塵か埃のようなもの……これは殺戮ですらない、ただの掃除だ」
「兄さん……」
兄を見つめるマルクトの瞳はなぜか悲しげだった。
「急ぐぞ、アクセル様を待たせるわけにはいかん」
ケテルは翼のはばたきを強める。
金と銀の天使の兄妹の姿は空の彼方へと消えていった。



コクマは光り輝く黄金の海を見つめていた。
とても美しい海である。
少し前にケセドはこの海の中に消えていった。
「さて、文字通りそろそろ頭は冷えた頃ですかね?」
突然、海面が乱れ、黄金の海の中から一人の女性が姿を現す。
姿を現したのは蒼い髪と瞳の美女ケセド・ツァドキエルではなく、黄金の髪と瞳の美女ビナー・ツァフキエルだった。
「……ふう」
一糸纏わぬ姿のビナーは深く息を吐く。
その姿は、長く風呂に入りすぎて疲れたというか、気怠いといった感じにも見えた。
「あたくし、どれくらい眠ってましたの?」
ビナーは海面をゆっくりと岸へと向かって歩きながら、コクマに尋ねた。
「四、五日といったところですね。怪我の方はもう完全に良いのですか?」
「完璧ですわ! 見てくださいな、疵痕一つ残っていないですわ!」
ビナーは誇るように全身をコクマに見せつける。
「確かに、傷どころか染み一つない美しい肌ですね、まるで今生まれたばかりのように……それはそうと、そろそろ服を着られたらいかがですか?」
「別にコクマになら見られても全然構いませんわ」
岸に到着したビナーが体を軽く振るうと、黄金の水滴が飛び散り、透き通るような黄金色のフォーマルドレスがビナーの体に装着された。
「さて、ではここからは、傷心のお姉様に代わって、あたくしが働く番ですわね」
ビナーの右手には光り輝く片手剣が握られている。
一糸纏わぬ姿で海面から姿を現した時から、この剣だけはしっかりと握られていた。
「ケセドさんはしばらく使い物になりませんか?」
「精神的なダメージが大きかったみたいだから……アレは心的外傷みたいなものだし……まあ、しばらくは駄目だと思いますわ」
「そうですか」
「あら、今、一瞬だけ寂しそうな顔しませんでした?」
そう言うとビナーはコクマの顔をのぞき込む。
「さあ、どうですかね」
「悲しいですわ。あたくしは、こんなにもあなたを愛しているのに……あなたはあたくしよりお姉様の方がお気に入りなんですもの」
「ケセドさんは私を嫌ってくれていますから」
コクマは楽しげに微笑を浮かべると、ビナーに背中を向ける。
「では、参りましょうか。ファントム十大天使、久し振りの全員集合ですよ」
「ええ、楽しみですわね」
コクマとビナーは連れ立って光海を後にした。



ティファレクトは、血のように赤い泉に漬かっていた。
ティファレクトは水をすくうかのように左手を泉から引き上げる。
「ふん、やはりどれだけ精巧でも紛い物は紛い物、生身の腕が一番だな」
ティファレクトは左手を泉の中に戻すと、今度は右足を泉から上げた。
右足の方も違和感はもう殆どない。
ふわふわ。
突然、間抜けな音がティファレクトの耳に聞こえてきた。
その音を聞いただけで、何が来たのかティファレクトには即座に解る。
「……ミーティアか」
「血のお風呂なんて、本物の吸血鬼みたいだね、ティファ」
赤いワンピースを着こなした金髪の幼い少女が、浮遊する巨大な水晶玉に乗って姿を現した。
ミーティア・ハイエンド。
ファントム総帥アクセルの妹にして、ファントム十大天使番外位、深淵(ダアト)を司る者でもある。
「……本物も何も、我は正真正銘、吸血鬼だ」
ティファレクトはこの幼い少女がいろんな意味で苦手だった。
まず、自分に懐くのが、つきまとうのが鬱陶しい。
そして、何よりこのふざけた存在が、自分の上司だということが、自分より『強い』ということが、認められず、気に入らなかった。
「ティファと裸のつき合いというのも魅力的だけど……そろそろ皆が集まる頃だよ」
「ふん、時間があろうと、ここに漬かる気などなかろうに……」
ティファレクトは血の泉の中から立ち上がった。
不健康なまでに白く美しい肌が露わになる。
「まあ、確かに、血の海に漬かって喜ぶ趣味はミーティアにはないけど、ティファと一緒には居たいし、ティファの裸が見られる役得もあるし……微妙なところなんだよね」
「ふん、相変わらず訳の分からぬことを……」
ティファレクトは血の泉から上がると、地面に転がっていた黒マントと黒ずくめの衣装を拾った。
「ティファ、ミーティアが拭いてあげるよ〜」
ミーティアは自らが乗る水晶玉の『中』からタオルを取り出すと、ティファレクトの真後ろに移動する。
「いらん、歩いてるうちに自然に乾……」
「ティファとミーティアの間に遠慮はいらないよ」
ミーティアは勝手にティファレクトの体を拭きだした。
「別に遠慮などしていない……」
ティファレクトはミーティアが一通り拭き終わったのを確認すると、素早く衣装を身に纏い、黒マントを羽織る。
「さて、では行くか。あまり遅いとケテルあたりがうるさいからな」
「どうせ、ケテルの言うことなんて相手にもしないくせに〜」
「ふん、我は誰の指図もうけぬ」
「あ、置いていかないでよ、ティファ〜」
ミーティアは、勝手に歩き出すティファレクトの後を、慌てて追っていった。



「がははははははははっ!」
品のない笑い声と共に、一人の大男がその場に姿を現した。
血のように赤い短髪と瞳、鍛え抜かれた筋肉質の体、髪や瞳と同じ血のように赤い鎧を身に纏っている。
「ファントム十大天使第五位ゲブラー・カマエル様の御帰還だぜっ!」
ゲブラーがドアを蹴り飛ばして入室した部屋には、円卓があり、そこに数人の人物がすでに座っていた。
「ゲブラー、貴様! ドアを蹴り開けるなと何度言えば解るのだ!?」
金髪に黒衣の男ケテル・メタトロンがゲブラーを怒鳴りつける。
「ああん? 相変わらず細かい野郎だな。どうせ、お前が直すわけじゃないだろう」
「そう言う問題ではない! 滅されたいか、貴様!」
「あん? やるってなら相手になるぜ?」
ゲブラーは挑発するかのように不敵な笑みを浮かべた。
「……どうやら、天罰を下されたいようだな」
「はっ! 来やがれ、堕天使野郎!」
ゲブラーが挑発と侮辱を込めて右手の中指を突き立てる。
しかし、ケテルの姿は円卓の席からすでに消え去っていた。
「あん?」
「どこを見ている、下等生物!」
ケテルは、ゲブラーの背後の空間に浮いている。
ケテルの両手にはそれぞれ、硬鞭(こうべん)……竹のような節のある鉄の棒が握られていた。
ケテルは迷うことなく、右手の硬鞭をゲブラーの後頭部に叩きつける。
「がああっ!?」
常人だったら、頭部が吹き飛ぶような一撃だったが、ゲブラーは一瞬だけ痛そうに顔を歪めただけで、振り返りざまにケテルに右手で殴りかかった。
ケテルは左手の硬鞭でゲブラーの一撃を薙ぎ払うと、右手の硬鞭をゲブラーの顔面に向けて放つ。
「なめるんじゃねえっ!」
ゲブラーは迫り来る硬鞭を左拳で殴りつけた。
「くっ!」
ケテルの右手が硬鞭ごと弾き飛ばされる。
さらに、ゲブラーは右拳で追撃の一撃をケテルの腹部を狙って放った。
「図に乗るなっ!」
ケテルの左手の硬鞭がゲブラーの追撃の一撃を叩き落とす。
……といった具合に、ケテルの二本の硬鞭とゲブラーの両拳が一進一退の攻防を繰り広げていた。
「止めなくていいの、お兄様?」
円卓に座っている仮面の男アクセルに、背後の空間に浮かぶ巨大な水晶玉に乗っている幼い少女ミーティアが尋ねる。
「なんなら、お前が止めてみるか、ミーティア?」
アクセルは面白がるような声で妹にそう答えた。
「冗談、筋肉馬鹿と堅物馬鹿の間になんて入りたくもないよ」
ミーティアは心底嫌そうにそう言うと、円卓を見回す。
円卓についているのは兄以外に五人。
ティファレクトは見世物か何かのようにケテルとゲブラーの戦闘を楽しげに眺めていた。マルクトは心配げな表情で双子の兄であるケテルを見守っている。
ネツァクは無感情、いや、僅かに侮蔑や呆れを浮かべた瞳でケテルとゲブラーを見つめていた。
ビナーは隣に座るコクマに愛おしげな視線を向けていて、ケテルとゲブラーの方など見てもいない。
そして、最後の一人、コクマは何を考えているのかよく解らない笑顔で、ケテルとゲブラーの戦闘を眺めていた。
「本気といえば本気ですが、お遊びといえばお遊びですね。どう思いますか、ホドさん?」
「えっ、ホド?」
コクマの口から出た名前に反応し、ミーティアはファントム十大天使第八位栄光のホド・ニルカーラの『席』に視線を向ける。
顔上半分だけを仮面で隠した黒衣の男が確かに席に座っていた。
「ホド、いつのまに……」
「…………」
ホドは何も答えない。
「ケテルさんが能力の類を使わずに鞭(べん)などを使っているのは、『ここ』を壊さないため、あれでは本気とはとても言えないですよね」
返事がなかったにも関わらず、コクマは再びホドに話しかけた。
「まあ、ゲブラーさんの場合は、得物を出さずに素手で戦っているのは、小回りのきく拳じゃないと硬鞭をさばききれない……と本能的に感じているだけだと思いますが」
もしかしたら、話しかけているのではなく独り言なのかもしれない。
「こういう形での長期戦、消耗戦というのは……見てる方としてはいまいちつまらないですね。この調子では決着がつくまでに何日かかるか解りませんし……そろそろ止めますかね?」
そう言って、コクマが席から立ち上がろうとした瞬間だった。
ケテルとゲブラーの間に赤い炎の柱が割り込んだのは……。



このままでは埒が明かない。
この調子の肉弾戦では、三日三晩、いや、千夜戦い続けても決着がつきそうにないと、ケテルとゲブラーは同時に判断した。
そして、二人はまったく同時に後方に跳び、間合いをとる。
ゲブラーは右拳を引き絞ると、右拳だけに全ての闘気を集めだした。
ケテルが右手を突き出すと、その掌に白い光が集まっていく。
「天罰!」
「砕け散りやがれっ!」
『そこまでですよ〜』
二人の間に吹き出した火柱と共に姿を現す、赤い女。
彼女は、ケテルの撃ちだした白光を左手で持った羽団扇の生み出した風圧で掻き消し、右掌で闘気の籠もったゲブラーの右拳をあっさりと受け止めた。
「聖属性の破壊光に、全闘気を集めた拳撃ですか、『ここ』を跡形もなく吹き飛ばす気ですか? もう、おいたはメッですよ、二人とも〜」
ワインレットの扇情的なドレスを着こなした赤毛の熟女イェソド・ジブリールは緊張感の欠片もない気怠げな声で、子供を窘めるかのように言う。
「悪魔が……っ」
ケテルは嫌悪を込めて呟いた。
「ちっ!」
ゲブラーは舌打ちと共に、イェソドに掴まれていた右拳を力ずくで引き戻す。
「てめえの手は熱いんだよ! さっさと離しやがれ! 俺様の拳を灼く気か!?」
ゲブラーは軽い火傷をしている右手を左手でさすりながら吐き捨てるように言った。
「あははーっ、それは失礼しました。あなたのお肌がそんなに繊細とは知りませんでしたよ〜」
イェソドは嫌味なのか本気なのか解りにくい表情と口調で答える。
「てめえ……」
ゲブラーは嫌味だと判断したようである。
イェソドを睨みつけるが、ケテルの時のように殴りかかるようなことはしなかった。
ゲブラーは周りの者が言う程馬鹿ではない、特に戦闘、戦いに対しては頭が良く回る。
ケテルと戦闘し消耗した状態でイェソドに勝てるわけがないと冷静に判断していたのだ。
というよりも、例え全快の状態でもイェソドに対しては勝算が低い。
能力的な相性が悪いということもあるが、イェソドの場合強さの底が知れないのだ。
例えば、ケテルが相手なら腕力や体力といったパワー、純粋な攻撃力なら絶対に負けるはずがないという絶対の自信があるが、これがイェソドが相手だとそうはいかない。
現にさっきも、全闘気を込めた渾身の拳の一撃を、細腕であっさりと受け止められたばかりだ。
イェソド、D、ネメシス、アクセル、この四人とだけはできれば戦いたくない。
自分と互角、自分より僅かに強いかもしれない、そういった者と戦うことは恐れはしない、寧ろ望むところだ。
だが、この四人は違う。
この四人の強さは別格、破格なのだ。
冷静な計算に基づく判断というよりも、本能的にそれが解る。
他のファントム十大天使が相手なら、強さや能力の違いや相性こそあれ、強さのレベルは基本的に互角だ。
勝つか負けるかは五分五分、そういった戦いは面白い。
しかし、絶対に勝てる気がしない相手と戦うのは面白くもないし、愚かなだけだ。
「さてと、私はさっさと昼寝に戻りたいので、ちゃっちゃっと会議を終わらせちゃいましょうよ、アクセル様〜」
そう言うと、イェソドは円卓の自分の席に腰を下ろす。
ケテルとゲブラーもスッキリしない表情をしたままだが、それぞれ自分の席についた。
「そうだな。だが、会議などという大層なものではない。ただ、決定事項を宣言するだけだ」
アクセルは円卓を見回す。
自分達兄妹と十人の幹部(ケセドの席にはビナーの剣がケセドの代わりに置かれている)、十二の座席が綺麗に埋まっていた。
アクセルは席から立ち上がる。
「遊びの時間は終わりだ。落とすぞ、七国を全て、一瞬のうちに」
アクセルは、言っている内容のとんでも無さと違い、こともなげに宣言した。



「がはははははははっ!」
アクセルの宣言に真っ先に反応したのはゲブラーだった。
「もう小さな街や村をちまちま潰さないで、首都をいきなり落としていいんだなっ!? 好きに暴れていいんだな、アクセル!?」
ゲブラーは興奮を隠そうともしない。
「ああ、そうだ」
「がはははははははははははははっ! 待ってたぜ、この時をっ!」
「ふん、相変わらず野蛮な……まあ、はしゃぐ気持ちは我も解らなくもない。殺し……滅ぼし方は好きにやらせてもらうぞ、よいな、アクセル?」
ティファレクトは愉悦に満ちた表情を浮かべていた。
「好きにしろ。コクマ、戦力の割り振りなどの細部は全てお前に任せる」
「心得ました。皆さん、どこの国の担当になっても文句を言わないでくださいよ」
「手応えのない国は嫌だぜ? まあ、七つしか国がないからな、余っちまうというか、かぶっちまうな」
「どこの国でもいいですけど、私は『一人』でやらせてもらいますよ。ここに居る誰と組むのも、雑魚達を押し付けられるのも御免です〜」
そう宣言すると、イェソドは真っ先に円卓から席を立つ。
「雑魚か……安心しろ、千面衆は使わない。七国は全て、お前達一人か、二人で一国ずつ潰してもらう」
「そりゃいいや、存分に殺しが楽しめそうだ」
「愚かな、また一人一人その手で殺していく気か?」
ケテルは侮蔑を込めて呟いた。
「はん! お前みたいに遠距離から街ごと全部吹き飛ばして何が楽しいんだよ?」
「効率的といえ。貴様ら、下等な人間の血で私の手や体を汚したくはないのでな」
「いや、血は良いものだぞ、吸うのも浴びるのもな」
「黙れ、口を挟むな、吸血鬼!」
「ふん、天使というのは恐ろしく傲慢な生物なのだな、多種族は全て見下さずにはいれぬらしい……」
ティファレクトの瞳に殺気が宿る。
「貴様ら、吸血種、不死族など人間のできそこないではないか。高貴な存在である私と対等に口をきこうという時点で間違っているのだ」
「また始まった……ティファよりケテルの方が吸血鬼に向いてるよ、傲慢で他者を見下すところが……」
ミーティアは呆れ果てたような表情で、わざとらしく肩をすくめてみせた。
「申し訳ありません、ミーティア様。兄さんは人間が嫌いですから……」
「あははっ、あと、天使らしく、悪魔も嫌いみたいですね。自分だってもう堕天使みたいなもんのくせに〜」
「……くだらない」
ネツァクは自分には関係ないとばかりに、円卓から立ち上がると、部屋から出ていく。
「まあ、ネツァクの場合は魔族なのか人間なのか微妙だけど、どっちにしろケテルは嫌いなんだろうね。というか、同族である天使ですら嫌いなんじゃないの? 妹のマルクト以外……」
「要するに最愛の妹以外の他者は全部嫌いなんですね〜」
あははーっと笑いながら、イェソドも部屋から出ていった。
「まあいいさ、てめえらの相手するより、七国潰しで大暴れした方が面白いだろうからな」
「ふん、そうだな、堕天使や筋肉の相手などしている場合ではないな」
「さっさと、私の前から失せろ、薄汚い肉の塊と死肉の塊」
ゲブラー、ティファレクト、ケテルの三人は互いに背を向けあうと、それぞれ退室していく。
「では、私も失礼します、ミーティア様」
マルクトは深々とミーティアに頭を下げると、兄の後を追っていった。
「さて、後は……」
ミーティアの視線の先にはコクマとビナーが居る。
「では、ビナーさん。私はアクセルさんと話がありますので、先に戻っていてくれませんか?」
「そうですの? では、また後ほど」
ビナーはコクマに言われたとおり、素直に部屋から出ていった。
「じゃあ、ここからシークレットトークだね」
ミーティアはビナーの姿が完全に見えなくなったのを確認すると、兄とコクマの真後ろに移動する。
部屋に現在残っているのは、アクセル、コクマ、ミーティア、そしてホドの四人だけだ。
「結局、今ここに居る四人以外はこの最終作戦の本当の目的は知らないままなんだよね、お兄様?」
「真実を知る必要はない。どちらにしろ行うことは変わらないのだからな」
「ええ、彼等は首都を滅ぼしてくれればそれでいい。なぜ、首都を滅ぼさなければならないのか……など知る必要はまったくありません」
「ホント悪だよね、お兄様もコクマも」
ミーティアは二人を責めるわけでもなく、ただ楽しげに笑う。
「善も悪もありませんよ。今回の目的を果たすために必要な力、それがファントム、そのためにファントムを作ったようなものですから……そうですよね、アクセルさん?」
「…………」
アクセルはコクマの言葉には答えず、かわりにイスを開け放たれた部屋の入り口に投げつけた。
イスは地に落ちることもなく、部屋の入り口の『空間』に呑み込まれて消えていく。
イスが全て消え去ると、代わりにDが姿を現した。
「おや、シークレットトークを始める前に、結界を張ったんじゃなかったんですか、ミーティアさん?」
「ちゃんと張ったよ。でも、Dやイェソドには……ねえ」
「わたくしにはどんな結界も無意味です。わたくしの目から逃れたいのなら、一切の闇も影も存在しない世界を探すのですね」
Dは妖艶に笑う。
「悪魔や魔王を出し抜けるなどとは最初から思っていない。イェソドも全てを知っていながら、あえて私達の計画に乗っているのだろうな。自らの楽しみに相反しない限りは……」
「ええ、あの方は魔人ごときに利用される間抜けではありませんわ。このわたくしが一目置く方ですもの」
「では、あなたはどうなんだ? できれば、あなたにも手を貸して欲しいのだが」
「わたくしに命令できる御方はこの世で唯一人だけ……それはあなたではありません」
「…………」
「ですが、それ相応の代価を頂けるのなら、暇潰しに少しだけなら手を貸して差し上げてもかまいませんわ」
Dは文字通り魔性の笑みを浮かべてそう告げた。
















 『Dの読み飛ばしてくれてもいい補足説明』

「今回は『硬鞭(鋼鞭)』についてです。鉄や鋼でできた曲がらない硬い鞭(棒)。鉄鞭といった方が意味も通じてイメージしやすいかもしれませんね。それに対して、多筋鞭(三節鞭、九節鞭、十三節鞭など)などのヌンチャクのような曲がる鞭を軟鞭と呼びます。剣の形をした単なる鉄の棒は金間と呼ばれ、硬鞭とは限りなく近しい別物です。以上の武具は説明するまでもなく中国の昔の武器(この作品内に中国はないと思いますが)です……では、ごきげんよう」






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一言感想板
一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。



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DEATH・OVERTURE〜死神序曲〜